入院8日目、そして出産

昨夜からじんわりとお腹と腰の痛みが出てきた。陣痛につながるかな、どうかな、と思いながらうとうとする。

9時内診、子宮口の開きはさほどらしいが、だいぶ赤ちゃんの頭が触りやすくはなってきましたね、とのこと。今日は点滴をする。今日は産まれないかもしれないけど、週数も進んできてるし、がんばってみましょうと言われる。我が子、がんばってほしい。そろそろいいだろ外の世界も。

10時点滴開始。金曜にやった時と比べ痛みが違う。気軽に人と話す余裕がない。昼食も休み休み食べた。メニューが地味だったが、お産は体力勝負!と思い意地でほぼ完食。

昼食後4回くらいトイレに行く。しかも大きいほう。2、3分感覚で痛みがくるのだが、痛い時は気張れないのですごく時間がかかる。しかも出し切ったつもりなのに何回も行きたくなる、かつすごい出る。点滴の副作用に下痢の症状ってあったな。お産のとき便出そうになったらそっちのほうに気がいって集中できなくなりそうだったので、いきみすぎないよう注意しながらなんとか出し切る。昨日便が出なかったことを後悔する。赤ちゃんも下りてきてるので、腸も押されて便が出るのかも、と看護師さんに言われる。

便と格闘している間お産のほうもどんどん進んだらしく、痛みがどんどこ増してくる。痛みをしのぐのに、ベッドに横になったり四つん這いになったり、立ってどこかに手をついてみたり、穴の空いた丸椅子に座ってみたり、と試行錯誤したのだが、「床に座布団を敷いてひざをつき、壁際にある背もたれ付きの椅子にでっかいビーズクッションを置き、それにしがみついて体をあずける」というのが私にはいちばんしっくりきた。ここでしっくりくる体勢を考えられたことが、後ですごく効いた。

合間に診察いきましょうと何回か言われる。その度に部屋から診察室まで歩いていかないといけない。通常時なら歩いて20歩程度の距離なのだが、ちきしょう、部屋で見てくれよぉぉぉ!と終わりのほうになればなるほど思った。でも逆らう気力もなく、「…はい」と力なく答え、よぼよぼ途中で何度も止まりながら進む。

診察する度に「えー!すごい!すごい進んでるよ!いい調子!」と看護師さんに褒められる。聞けばこの日すでに3人くらい産まれたらしい。この波にあなたも乗れたらいいねえ!と言われた。昼過ぎの時点では「うーん、このまま本陣痛につながるかはなんとも言えないねえ」と言われていたのだが、いやまさかこんなにスルスルと進むとは思ってもみず、慌てて夫に電話する。この時点で15時。すると県北の方にいるという。すぐに病院に向かうとは言ってくれたが、こりゃあ間に合わないかもしれないぞと思った。迷ったが、身内のフォローがないと心細かったので母に応援を頼む。すぐに駆けつけてくれてとてもありがたかったし助かった。身体的なフォローは看護師さんが完璧にやってくれたので、あれをとってくれこれを用意してくれという細かなお願いごとを頼むくらいだったが、見守ってくれているだけでがんばれた。

何回か部屋と診察室の往復をした後、陣痛室いきましょうと言われる。おお、ついに陣痛室!必要なものだけ持って移動する。フローリングに布団が敷いてあるタイプの部屋を選ぶ。壁に先程から使っているクッションを縦置きし、しっかとしがみつく。これがベスポジだった。布団のおかげで脚が痛くならないし、痛いときも踏ん張れるし、痛みが去ったあとは体をあずけて休めるし、たしかに痛いのは痛いがちょっとはマシだった。お腹に張りと胎児心音を測るモニターをつけられ、腕には点滴をされているのがなんともわずらわしく不自由ではあったが。

しかし時間が進むにつれどんどん痛い時の種類が変わってきて、うゔーーーん!と声を出さないと我慢できないレベルになり、体がプルプル震える。硬い便を出したいのに出ない時の感覚に似ている。便のパワーが何百倍もある感じ。まだそこまでいきみたいレベルではないけど、たぶんいきんじゃいけないんだろうなと思ってこらえる。痛いねーとさすってくれたりおしもを押さえてくれたりする看護師さんだが、その間にも促進剤の量を上げていく冷静さを恨む。

合間に子宮口の開きを二回くらい見られ(もちろん診察室に移動しなければならない。つらい)、分娩室いきましょうと言われる。自分の感覚としてはえっもう産む体勢になっていいの?!という感覚だった。産前の母親教室で、産む間際にならないと分娩室に移動にはなりません、と教えてもらっていたので、ゴール地点もよくわからないまま走り始めたけど(そして走る距離もどのくらいあるのかわからないまま走り始めたけど)、気がついたらゴールテープが見えてきた!と光が射した思いがした。いつ陣痛室そして分娩室に移動したのかは覚えてないが、母曰くあれよあれよと進んでいくのにびっくりしたそうだ。まだまだこんなもんじゃない、もっとかかるよ、産まれるのは深夜くらいじゃない?と思っていたそうだ。私が比較的冷静に陣痛に耐えていたのもあったかもしれない。取り乱したり大騒ぎしたり暴言を吐いたりがなく、最後まで周囲に「すみません、ありがとうございます」という気持ちでいられた。人に気をつかっているうちは産まれないと看護師さんに言われていたが、そうでもなかった。

分娩室でお産の準備をばたばたと進めてもらっている間、助産師さん看護師さんは「ご、ご主人はまだですか?!」と慌てていたらしい。すみません夫のことまで心配してもらって。でももういいです、間に合わないかもですがみなさんのリードに従って産みますので、と思っていた。すると夫到着。なんというタイミング。夫に頭の方に回ってもらい、うちわで扇いだりいきむとき頭を支えてもらったりする。

そこからいきむ体勢に入った気がする。はい、いまいきんでー、脚の内腿もってぐーっとひっぱってみてー、今度はお尻のほうに力入れてみてー、などという指示に従い、その通りやってみる。そうそう、上手上手!と褒められる。途中赤ちゃんが一番苦しいところを出ようとするとき酸素を鼻から入れられた。何回かいきんだ後、破水したのが分かった(あるいは先生が破水させたのかも)。もう頭見えてるよ、ふさふさの毛が出てきてるよと言われやったあ!と嬉しかった。あとちょっとだ。会陰切開され(ばつんばつん!というハサミを入れる音が恐怖だったが麻酔のせいか陣痛の痛みのせいか、切る時はちくっとした程度)ふーんといきむとにゅるんと出てきた感覚が。「頭出たよー、あとは肩出ますよー、ほーら出たー!」助産師さんが言った後、おぎゃあおぎゃあと泣き声が聞こえた。「おめでとうございます、女の子ですよー」おお、やはり女の子だったか。出てきた直後からずっと元気な泣き声が聞こえ、安心した。17時26分誕生。ありがとう、がんばったね!

私が胎盤を出したり会陰を縫われたりしている間、夫は赤ちゃんの方へ回って写真を撮っていた。しかし血まみれの赤ちゃんを見ているうちに気分が悪くなったようで(夫は自分の血を見るのもダメなくらいの血が苦手人間)、するっと退室してしまった。まあいいか、産む瞬間立ち会えたし。

産後の処置をしてもらっている間、赤ちゃんの体重が2518gだったことを知らされる。少なっ!41週過ぎてるのにギリ2500g超えたのか、そりゃあなかなか腹から出てこないわ、と思った。そして、週数に対して体重が少なすぎたり多すぎたりすると低血糖のおそれがあるので、新生児室でお預かりして様子を見させてください、と言われた。まあ元気に泣いてたし大丈夫だろう。産んですぐカンガルーケアしたり初乳をあげたりしたかったが、しかたない。

産後2時間は出血量や母体異変がないかを確認し部屋へ戻ると言われていた。処置中は家族は入れないが、出産後分娩室に家族ひとりずつ入ってもらい、助産師さんや先生がいない間は誰かに入ってもらって母体の状態を見てもらう。両親も入れ替わり分娩室に入ってきて、声をかけてくれる。私が会陰切開後の縫合をしている間ずっと父のデカイ声、しかもスマホの使い方を夫にレクチャーしてもらっている声がずっと聞こえ(父は先週スマホデビューしたばかり)、あの親父、私が痛い思いをしているときに呑気なことを…!と殺意を抱いていたが、父が入室した後涙ぐみながら「お母さんになれて、よかったのう」と言ったのでちょっと許す、と思った。
20時を過ぎたが、なかなか先生からの退室OKが出ない。出血量がすごく多いわけではないが、促進剤を使ったことと一気にお産が進んだことで子宮が疲れてしまい、出血しきれてないかも、とのこと。部屋に帰って一気に出血してはいけないので、しばらく分娩室で様子見させてくださいと言われる。子宮の戻りが悪いわけではないらしい。何回かお腹をくぐっと押されて出血させられる。待機中はその間夫にカープの試合経過を教えてもらったり(先制されたが逆転しそのまま勝ったのでよかった)親族に連絡したか聞いたりして過ごした。

結局、大丈夫だとは思うけど、まだ一気に出血する恐れがあるため今晩は立ち上がらないほうがいいということで導尿をされ、22時前ベッドで部屋に戻った。産む前より産んだ後のほうが時間がかかってしまった。待ってもらった家族に申し訳ない。病院の夕食が食べられなかったので、母にコンビニおむすびを買ってきてもらい、食べさせてもらった。ひとりだったら食べる気はしなかったと思うが、折角買ってきてもらったのだからもったいないし食べないとというくいいじと、食べないと後がしんどいかもと思いで、おむすびふたつ食べきった。私のごはんを見届け、夫と両親は帰っていった。最後までありがとう。

就寝前、血栓予防に弾性ストッキングとレッグエアーポンプを履かせてもらった。出産後脚がつりそうになっていたので、気持ちよかった。しかし点滴・導尿をされ、指に酸素濃度計をつけられ、脚にはポンプ、と管まみれ。かつお尻が痛い(最初尻の穴まで私は縫われたのかと思ったくらい、ピンポイントで尻が痛かった。聞けば、出産時にお尻に力が入るからうっ血してるかもしれないし、お尻の近くまで縫ってるから痛いと思う、と言われた)ので全然寝られない。痛み止めを飲んで1時間くらいは寝られた気がする。とにかく朝までずっと「尻が痛い…痛いよう…」とだけ思っていた。