生後3週目

生後3週目は魔の3週目らしい。

赤ちゃんが外の世界に出たことを認識しはじめ、戸惑い不安になって泣くことが多くなる。それと同時に母親も心身ともに疲れのピークを迎えているので、泣くばかりの我が子を前にどうしたらいいのかわからなくなり苦痛を感じる。というのが生後3週目あたりからあらわれるそうだ。

確かに我が子も、先週より起きている時間が(特に昼間)増えたように思う。そして泣いている時間も増えた気がする。ずっと泣き続けるわけではないのだが、それでも急に火がついたように泣かれると、こちらもワタワタしてしまう。なだめすかし、落ち着かせ、ベッドに置いて、様子を見、ほっとしていたらまた泣き出し、というのを繰り返す日中。それ以外はミルクをやりおしめをかえ、私も食べるか寝るかちょっと読書かネットするかで、なにもしてないのにあっという間に時間がすぎてしまう。それで十分じゃないか、と誰かにいってもらわないと、なにやってんだろ自分は、と思いがちだ。

 

私は元来、人に頼ったり甘えたりするのが下手だ。

幼い頃からいわゆる「出来のいい子」「手のかからない子」で育ってきたせいなのか、母親の生真面目で我慢しがちな性格を受け継いでいるせいなのか、人を頼るタイミングが遅いらしく、限界までがんばってしまい(でも本人はまだまだ全然がんばれてない、もっと自分でがんばらないとと思っている)、もうどうにも立ち行かなくなってようやく、叫ぶように「誰か助けてくれ!」と言える。周囲にとってはめんどくさいことこの上ないだろう。

仕事でも家事でも育児でも、 自分で考える「やるべきこと」がたまっていくと、当然できないこともうまれる。それをひとにやってもらうと、「本当はそれ、私がすべきことなのに、やらせてしまって申し訳ない」と思ってしまう。そういうシーンが増えると、自分に対して無能感がうまれ、(本当はそんなことないのに)何もできない自分なんている価値がない、と思考が飛躍してしまう。体調が悪い時に特にそうなりがちだし、自分で思っているより自分の器が大きくないのに「こんなもんじゃないだろ、またまだやれるだろ自分」と問題をいくつも抱えてしまうことに、なかなか気付けない。そういう自分が嫌で、なんでもっと楽に生きられないんだろうとずっと思っている。

家事や子どもの世話ももっとしたいのに、身体がしんどいし、疲れてしかたないからできない、そういう自分はただ怠けているだけなのではないか、母としてのつとめが果たせていない自分はおかしいんじゃないのか。誰も責めているわけではないのに、ずっと責められているような気がする。ちょっと否定的なことを言われるととても傷つく。唯一日常接する人である両親にあたってしまう。わかっている、自分で自分を責めて傷つけているだけだということは。でも、その思考からなかなか抜け出せずつらい。マタニティブルーズなのは間違いないだろうが、このままこれが続いて、産後うつを発症するんじゃないのか。そういう思いに取り憑かれている。とにかくいろんなことがこわい。

 

でもちょっと気持ちが楽になったことがある。

ある日、実家に顔を出してくれた夫に、今日はしんどくてほとんど横になっていた、子どもの世話もほぼ母が見てくれて、私はなにもしてなかったと言うと、夫は「よかったじゃん、そのために実家にいるんでしょ?」と言った。まだ身体しんどいんだろうねとか、無理せず休んだらいいよとかの言葉を期待していた私は「えっ…」と絶句したが、目からうろこが落ちた気がした。そうか、そういう風に考えればいいのか、親に負い目を感じる必要はないか、と気付かされた。

それから、今週は退院時に予約した母乳外来を受診した。担当してくれた助産師さんは私の気持ちをうまく汲み取ってくれ、付き添った母にもそれを説明してくれた。母とはいまいち考えや思いがかみ合わず、母からの言葉がぐさりと刺さることがたびたびあるのだが、私も母と何回も言い合いましたよと完全同意してくれたのが心強かった。なかなか自分の口からは言いづらいことを第三者から言ってもらえると、母も冷静に聞いてくれるので、たいへんありがたかった。

子どもの体重もちょうどよく増えているね、心配してたけどよかった、母乳はあげてます?と聞かれ、びくびくしながら「母乳あげるのしんどくて、ミルクだけにしてるんです」というと「ああ!それでいいと思う!しんどいことはしなくていいよ!」とあっさり言ってくれた。今はとかく赤ちゃんには母乳が一番!あげられるのならどんどん母乳をあげましょう!という論調が強いので、病気があったり母乳の出が明らかに悪かったりするわけでもなく、ただ身体がしんどいから母乳をあげる元気がない、今でさえ悩みが多いのに母乳という悩みが多そうな問題まで抱えたくない、という私はおかしいんじゃないのかとずーーーっと思っていたので、ものすごくほっとした。よかった、やっと解放された、と思った。母からもずっと「泣いてる時に母乳あげたら子どもも落ち着いて寝るんじゃないの?」と言われ続けていたので、母の前できっぱりと言ってくれて本当に本当によかった。

外来では子どものことは全く心配されず、終始私の心身の状態を心配された。顔がむくんでるみたい、寝られてないんじゃない?まあ、寝られないよね…ということから始まり、入院中の様子を知っているからか、実家にいるうちに、心療内科に行ってみるといいと思うとアドバイスを受けた。今日の様子見てるとたぶん大丈夫だとは思う、でもひどくなる前に行ってみるのもいいと思うよと。このわけのわからない恐怖や自責の念が止まらないことを放っておくと、よりひどいほうにいくのではないかと思うので、一回行くだけ行ってみようかなと思った。一年前に通っていたクリニックにとりあえず行ってみよう。